崖っぷちの老舗から全国1位まで
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全国に1200を超える「道の駅」は、地域の農産物や観光情報の発信地として多くの人に利用されてきました。今では防災拠点としての機能も期待され、旅の目的地としての人気も高まっています。しかしその裏では、約3割が赤字経営と報じられ、老舗が閉館の危機に立たされるなど「格差」の広がりが深刻化しています。地方創生の切り札とも言われた道の駅が、なぜ明暗を分けているのか。新しい成功事例から苦境に立つ老舗までを追い、「誰のための道の駅か」という問いを掘り下げます。
全国に広がる「道の駅」ブームと赤字問題
国土交通省が制度化して30年以上、道の駅は右肩上がりで増え続け、いまや全国に1230を超える規模となっています。観光案内や特産品販売だけでなく、防災拠点としての役割も担うなど、存在感は年々増しています。一方で、報道では全体の約3割が赤字とされ、直近3年半で4駅が閉館するなど、経営の厳しさも浮き彫りになっています。盛況な駅と苦境に立つ駅、その格差が広がりつつあるのです。
神奈川・茅ヶ崎「湘南ちがさき」オープンの狙い
2025年7月7日、神奈川県茅ヶ崎市に湘南エリア初の道の駅「湘南ちがさき」が誕生しました。朝から100人以上が行列をつくり、地元住民からも驚きの声が上がりました。仕掛け人は、宇都宮の「ろまんちっく村」など数々の成功例を手がけたファーマーズ・フォレストの松本謙社長です。今回の狙いは、観光客と地元客の両方を取り込む「ハイブリッド型」。
施設では、湘南ブランド豚を使った「角煮まん」や、茅ヶ崎の牧場の牛乳で開発されたソフトクリームなど、ここでしか味わえないオリジナル商品を展開。2階のフードコートでは地元漁師の魚を使った舟盛り定食や湘南しらす丼が人気を集めました。地元住民にとっても「自分の街に道の駅ができるとは」と驚きと期待が広がっています。
成功事例:京都・南山城村「お茶の京都」
人口わずか2300人の京都府南山城村に、2017年「お茶の京都 みなみやましろ村」が開業しました。宇治茶の産地のひとつでしかなかったこの村は、道の駅を契機に「村茶」というブランドを立ち上げ、約30種類の商品に拡大しました。
施設内のレストランでは、抹茶衣の天ぷらや茶そばを組み合わせた「お茶づくし御膳」、点てたて抹茶をかけたジェラートパフェなどが人気を呼び、来場者数は年間60万人を突破。2024年度の売上は6億円を超え、専門家が選ぶ「道の駅ランキング」で全国1位に輝きました。
この取り組みは地元農家にも変化をもたらしています。茶農家の一人は「収入が3割増えた。従来はお茶の時期だけの収入だったが、道の駅に出荷することで毎月収入が入るようになった」と語ります。道の駅が地域の暮らしを支え、過疎地ににぎわいを取り戻した成功例といえます。
成功と苦境の道の駅
駅名 | 開業年 | 来場者数 | 年商 | 主な施策 | 状況 |
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湘南ちがさき(神奈川) | 2025 | 初日行列100人超 | 調査中 | ハイブリッド型・角煮まん | 新規開業 |
お茶の京都みなみやましろ村(京都) | 2017 | 60万人 | 6億円 | 村茶ブランド化・茶づくし御膳 | 成功モデル |
いなみ木彫りの里(富山) | 1992 | 減少傾向 | 赤字改善中(約5000万→1200万) | 爆盛メニュー・クラファン | 再建途上 |
那珂市計画(茨城) | 2028予定 | 試算95万人 | 売上4.8億円予測 | 体験型直売・農産物販売 | 建設前・賛否対立 |
茨城・那珂市で割れる市民の声
人口約5万3000人の茨城県那珂市では、2028年開業をめざす道の駅計画が進められています。農産物直売所や体験施設を備える構想で、総事業費は約30億円。そのうち国の補助金を差し引いても、市が約10億円を負担する計算です。
市は農産物直売所の売上を年間4.8億円と試算し、年間95万人の来場者を見込んでいます。ところが、市民からは「全国の平均売上は2〜3億円程度」「近隣の常陸大宮市の実績は年間60万人来場で利益は1300万円。那珂市の予測は現実的でない」との声があがり、議会への陳情も提出されました。
一方で、農家からは「干し芋を出荷できるのは魅力」「販路拡大につながる」と歓迎の声もあります。利害関係者の立場によって評価が分かれ、市民の意見は真っ二つに割れています。
道の駅は誰のためか
道の駅は観光客にとっては休憩所や目的地、農家にとっては販路拡大の場、自治体にとっては地方創生の象徴となります。しかし、建設費や維持費は市民の税金で賄われるため、住民の理解が欠かせません。
成功すれば農家や観光業を潤す一方で、失敗すれば負の遺産になりかねない。那珂市の議論が示すように、「誰のための道の駅か」を明確にしないまま進めれば、後に深刻な分断を招く危険があります。
道の駅の成否を左右する流れ
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建設計画立案
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投資額と国・自治体の負担を決定
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運営体制を設計(直営・民間委託など)
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集客策の実施(ブランド化・体験型・オリジナル商品)
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地域経済への波及(農家収入増・雇用創出)
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成功モデル:安定的に黒字・地域振興に寄与
失敗モデル:赤字継続・閉館や住民負担増
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再建策:商品開発、クラウドファンディング、経営形態の見直し
「地方創生の実験場」としての道の駅
道の駅は、地域資源をどう磨き上げるかを試される「実験場」です。南山城村のように村茶をブランド化し、年間60万人を呼び込む成功例もあれば、富山・井波のように補助金打ち切りで赤字に苦しむ老舗もあります。
成功した駅に共通するのは、地元資源を唯一無二の価値に高め、観光客と地元住民の双方を巻き込んでいる点です。逆に失敗する駅は、立地条件や運営体制に頼り、住民合意が不十分なまま建設が進められた場合が多い。
「誰のためか」という問いに正面から向き合い、市民合意を得たうえで持続可能なモデルを設計すること。それこそが、道の駅が地方創生の真の切り札となる条件です。
FAQ
Q1. 道の駅は全国にいくつあるの?
A1. 国土交通省の登録によると、2025年時点で約1230駅あります。
Q2. なぜ赤字経営が多いの?
A2. 立地条件の不利や、運営体制の硬直、観光資源の不足が原因とされます。報道では全体の約3割が赤字とされています。
Q3. 成功している道の駅の特徴は?
A3. 地元資源のブランド化、体験型施設や独自商品の開発、観光と地元利用の両立が鍵となっています。
Q4. 住民が反対する理由は?
A4. 建設費や維持費の負担が税金で賄われるため、採算性への不安や「負の遺産になるのでは」との懸念があります。
Q5. 今後の道の駅に必要な条件は?
A5. 地域資源を活かした差別化、市民合意、持続可能な収支モデルが不可欠です。