京都のリサイクル会社で起きた3700万円着服事件。元社長は「快感だった」と語り、15万枚のトレカが押収された。裁判の全容を解説。
リサイクル会社着服事件
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トレーディングカード収集にのめり込んだ結果、会社資金約3700万円を着服したリサイクル会社元社長に、京都地裁が実刑判決を言い渡した。自宅からは15万枚を超えるカードが押収され、その大半はいまだ処分の見通しが立たない。経営の混乱と信頼失墜を招いたこの事件は、個人の嗜好が企業を揺るがす危うさを浮き彫りにした。
判決に至る経緯と着服の手口
京都府内のリサイクル会社で、長年社長を務めていた被告(54)は、2013年の就任以降、業務の一環として経費や貴金属の購入・管理を担っていた。遅くとも2018年頃からは、個人的な趣味であるトレーディングカード収集のために会社資金に手をつけるようになった。
検察によると、被告は主に現金を引き出す形で不正を重ね、その総額は起訴対象の3700万円にとどまらず、起訴されなかった分を含めると5200万円以上に上るという。2021年、同社の会計を担当していた税理士の指摘により不正が発覚。被告は社長職を辞任し、分割返済を開始したが、2023年秋には連絡が取れなくなり、会社側はやむなく民事訴訟と刑事告訴に踏み切った。
判決公判は2025年7月1日に京都地裁で開かれ、山口智子裁判官は「経営者としての責任を著しく裏切る行為で、会社に重大な損害を与えた」として、懲役3年6か月の実刑を言い渡した。
トレカへの執着と本人供述のゆらぎ
裁判では、被告の供述が注目を集めた。「箱を開けて、目当ての選手を引き当てるときに大きな快感を覚えた」。そう語る一方で、「借金や着服を重ねても、最後は喜びを感じなかった」とも述べ、熱中から無感覚へと移る心情の変化も明らかになった。
押収されたトレカは、野球・サッカーなどの海外リーグに関連するものが中心で、大谷翔平選手やアーロン・ジャッジ選手、過去には野茂英雄氏やイチロー氏といった有名選手のカードも含まれていた。会社倉庫に積み上げられた約15万枚のカードは、現在も売却の目処が立っていない。
京都新聞の取材に対し、被告は「もともとスポーツ観戦が好きだったが、会社経営のストレスから大量に買うようになった」と説明。そのうえで、「依存症とは思っていない」と強調した。
しかし、依存症治療を専門とする京都市下京区の安東医院の医師は、買い物依存について「正式な診断名ではないが、ギャンブル依存症に近い傾向を示す例もある」と述べ、判断の難しさと社会的支援の必要性に言及した。
会社再建への重い代償と現社長の証言
現社長によると、被告の着服が判明した2021年当時、会社は新型コロナウイルスの影響も受け、すでに経営的に厳しい状況にあったという。被告が姿を消したことで信頼は失墜し、業務提携先の見直しや社員の動揺も避けられなかった。
押収された約15万枚のトレカは現在、社内倉庫で保管されている。状態確認や種類別の仕分け、価格査定などに時間と人手を要し、売却の目処は立っていない。未回収分として残る約2千万円についても、法的手続き以外の手段は乏しい。
現社長は「誠意を尽くして返済を続けていれば、告訴は避けられたかもしれない」「会社の再建は今も途中段階だ」と語った。
被告の行動と裁判経過の時系列記録
「依存症ではない」という断定の危うさ
被告は一貫して「依存症ではない」と語っているが、裁判での供述や取材発言には“快感”や“ストレス発散”といった心理的キーワードが並ぶ。これは本人にとって「趣味の延長」であっても、傍から見れば金銭感覚や自己制御の喪失を示す行動と映る。
また、感情の変化にも揺らぎが見られた。「箱を開けても喜びがなかった」「空虚だった」という言葉は、本人が快楽のピークを過ぎた状態、いわゆる“報酬の鈍化”を経験していたことを示唆している。自認と実態のズレは、今後の回復や支援の議論にも影響する可能性がある。
企業崩壊と実刑判決に至る流れ
以下の流れで事態は深刻化した:
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就任後、業務ストレスと趣味嗜好が融合
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借金による資金不足 → 会社金の流用へ
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不正発覚 → 民事訴訟・刑事手続き
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社員・現社長による対応 → 組織再建の模索
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懲役判決確定 → 社内トレカ処理の課題継続中
嗜好の逸脱が経営破綻を招いた事例の象徴性
この事件は、私的な嗜好が企業経営に及ぼす影響として、極めて象徴的な例となった。被告が執着したのは換金性や投資性ではなく、あくまで「箱を開ける瞬間」の快感だったと供述されている。
この“儀式”はギャンブルに近い中毒性を持つが、診断名がないという曖昧さが社会的対応の遅れを招いている。今回の件では、制度的な対処よりも被害を受けた現場の負担が際立ち、経営体力の低下と信頼の崩壊という二重の損失が残された。
企業が個人の私的衝動に脅かされる現実。それは、嗜好の「自由」と責任の境界を見極めるための警鐘でもある。
❓FAQ|よくある疑問への5つの回答
Q1. なぜ会社のお金でトレカを買うことができたのですか?
A. 被告は経費や貴金属の購入・現金管理を一任される立場にあり、内部での資金チェック体制が甘かったことが背景にあります。
Q2. トレカのために使われた金額はどのくらいですか?
A. 起訴対象となった着服額は約3700万円ですが、未起訴分を含めると総額5200万円以上が不正に使われたとされています。
Q3. 本人は依存症と診断されたのですか?
A. 被告本人は「依存症ではない」と明言していますが、専門医は「ギャンブル依存に類似する行動」として治療対象になる可能性を指摘しています。
Q4. 押収された15万枚のトレカは今どうなっていますか?
A. 現在も会社が保管中で、カードの整理や価格査定に手間がかかっており、売却の目処は立っていないとされています。
Q5. 今後、同様の被害を防ぐにはどうすればいいですか?
A. 資金管理の複数人チェック体制や、趣味と業務の境界を明確に保つルールづくりが必要とされており、現場では対策強化が進められています。
総合要約表
区分 | 内容まとめ |
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出来事の要点 | 元社長が会社資金で約3700万円を不正使用し、15万枚のトレーディングカードを購入していたことが発覚。京都地裁は懲役3年6か月の実刑判決を言い渡した。 |
着服の経緯 | 被告は2013年に社長に就任。少なくとも2018年から着服を開始し、2021年に税理士の指摘で発覚。返済は一時行われたが、途中で連絡が取れなくなった。 |
被告の供述 | 「目当ての選手を引き当てる快感があった」と語りつつ、「依存症ではない」とも主張。ストレス発散が購入動機だったと説明した。 |
現在の状況 | 押収された約15万枚のカードは整理中で、売却の見通しは立っていない。被害額のうち約2千万円は未回収のまま。 |
社会的背景 | トレカの人気過熱によって各地で盗難事件も相次ぐ中、専門医は「買い物依存症に類似する例もある」と警鐘を鳴らしている。 |