QBハウスは退職率を10.3%から6.5%に改善。社内SNS「Qプラ」と研修制度「ロジスカット」で人材定着を実現。理美容業界の人手不足対策をデータで検証する。
退職率10.3%→6.5%へ
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理美容業界で深刻化する人手不足に挑むQBハウス。国内外700店舗以上を展開し、従業員数は2,800人を超える。2023年に10.3%だった退職率は2025年に6.5%へ改善した。背景には、社内SNSアプリ「Qプラ」の導入と教育・待遇制度の強化がある。社員同士のつながりを促す取り組みが、働き続けられる環境づくりにつながっている。
Qプラ導入で見えた社内の変化
QBハウスは、全社員が利用できる社内SNSアプリ「Qプラ」を2025年7月に提供開始した。これまで2カ月に1度紙で配布していた社内報では、情報が届くまでに時間がかかり、忙しい店舗スタッフが目を通す余裕も少なかった。Qプラはそれを改善し、スマートフォンから気軽に閲覧できる仕組みを整えた。
アプリでは、新店オープンやキャンペーン情報に加え、カット技術や接客ノウハウの動画、社員インタビュー記事などが配信される。社員はコメントやスタンプで反応でき、双方向のコミュニケーションが可能になった。テスト運用では、社長メッセージに多くのコメントが集まり、現場の声を発信したいという従業員の思いが浮き彫りになった。
少人数体制の店舗では、日常的に接するメンバーが限られるため、他店舗の仲間の存在が見えにくく孤立感を抱きやすいという課題があった。Qプラの導入により、「他店舗にも同じ思いを持つ仲間がいる」と実感できる環境が整いつつある。
教育と待遇改善の取り組み
QBハウスは、定着率を高めるために教育と待遇の両面に投資してきた。社内カットスクール「ロジスカット」を各地で運営し、未経験者でも研修を受ければ半年ほどでスタイリストとしてデビューできる。従業員の成長を支える研修制度は、働きながらスキルを習得できる安心材料となっている。
また、給与や評価制度の改善も進められてきた。努力を正しく評価し、感謝を伝える仕組みを整えることで、従業員が働き続けたいと思える職場づくりを目指している。福利厚生として持株会や補償制度を備え、大企業に所属する安心感を実感できる環境を整備している。
QBハウスと個人サロンの違い
項目 | QBハウス | 個人サロン |
---|---|---|
店舗数 | 国内585店、海外含め700店舗以上 | 店舗ごとに1~数名 |
従業員数 | 約2,882名(2024年6月末) | 店舗単位で数名規模 |
福利厚生 | 社会保険、持株会、補償制度あり | 制度未整備の例が多い |
教育制度 | ロジスカット研修、動画Eラーニング | 店舗ごとに異なる |
情報共有 | Qプラで全社員に配信 | 店舗内のみ |
退職率 | 2023年10.3% → 2025年6.5% | 業界全体で高水準(統計上、人手不足が深刻) |
理美容業界の人手不足とQBハウスの挑戦
理美容業界は機械化やAIによる代替が難しく、他業界以上に人材不足が深刻化している。帝国データバンクの調査によれば、美容室の倒産件数は増加傾向にあり、その背景には人材確保の困難さがあるとされる。小規模サロンでは社会保険や福利厚生の未整備も目立ち、働く人の定着が難しい。
QBハウスを展開するキュービーネットホールディングスは、中期経営計画で「人への投資」を重点テーマに掲げている。採用活動を強化するとともに、研修施設を全国で運営し、未経験からでも短期間で技術を身につけられる教育体制を整えた。さらに社内SNS「Qプラ」の活用を広げ、従業員のつながりを高めることで、業界全体の課題に挑んでいる。
現場の声と利用拡大の展望
Qプラのテスト運用では、社長のメッセージに多くのコメントが集まり、従業員が発信のハードルを越えて声を届けたいと感じていることが示された。現場スタッフからは「孤立感が減った」「他店舗の仲間の存在を知るきっかけになった」といった声も出ている。
今後はゲーミフィケーション要素を取り入れ、アプリの利用率をさらに高めることを目指している。従業員が自主的にコンテンツを発信し、同じ立場の店長やエリアマネジャー同士で情報交換が進むことで、さらなる安心感の醸成と定着率向上が期待されている。
大企業に属する安心感の意義
理美容業界は個人店が多く、社会保障や研修制度が不十分な環境も少なくない。その中で、QBハウスが提供する「福利厚生」「研修制度」「情報共有基盤」は、大企業に属する安心感を従業員に与えている。大企業ならではの制度とサポートが、働き続けられる理由となり、定着率改善につながっている。
施策から成果への流れ
【理美容業界の人手不足】
↓
【QBハウスが課題意識を認識(帰属意識低下・孤立感)】
↓
【対策:Qプラ導入・ロジスカット運営・給与制度改善】
↓
【社員の声が可視化・店舗間交流の促進】
↓
【安心感と帰属意識の醸成】
↓
【退職率改善(2023年10.3% → 2025年6.5%)】
↓
【今後:ゲーミフィケーション導入で利用率拡大】
FAQ
Q1. Qプラは誰が利用できるのか?
A1. 雇用形態にかかわらず全従業員が利用可能で、スマートフォンからアクセスできる。
Q2. 導入時期はいつか?
A2. 2025年7月11日に提供開始された。
Q3. 退職率はどのように改善したのか?
A3. 給与・評価制度の見直し、ロジスカットでの研修強化、Qプラによる情報共有の複合効果によって、2023年10.3%から2025年6.5%に改善した。
Q4. 他のサロンとの違いは?
A4. 福利厚生・研修制度・情報共有基盤が整備されている点で大きく異なる。
Q5. 今後の取り組みは?
A5. Qプラにゲーミフィケーションを導入し、従業員同士の交流と発信をさらに活性化する方針。
まとめ
見出し | 要約 |
---|---|
理美容業界の課題 | AIや機械に代替できず、人材不足が深刻化。倒産件数も増加。 |
QBハウスの施策 | 中期計画で「人への投資」を重視。Qプラ導入、ロジスカット運営、給与改善を実施。 |
現場の反応 | 社長メッセージに多数コメント。孤立感の解消や仲間意識の醸成が進む。 |
大企業の強み | 福利厚生や研修制度を整備し、働き続けられる安心感を提供。 |
成果と展望 | 退職率は2023年10.3%から2025年6.5%へ改善。今後はゲーミフィケーションで活用拡大へ。 |
人への投資が生む持続可能性
QBハウスの取り組みは、理美容業界の人材不足という構造的課題に対し、「人への投資」で応える実例となっている。Qプラで情報格差や孤立感を解消し、ロジスカットで教育機会を提供し、給与や福利厚生で安心感を補う──これらを組み合わせた施策が退職率改善という成果につながった。
ただし、成果の因果を明確にするには、アプリ利用率や研修定着率などのデータを継続的に追う必要がある。業界全体で人材確保が難しくなる中、QBハウスの施策は「従業員が長く働ける環境をどう作るか」という問いに対する有力な答えの一つといえる。