名古屋市の堀川で、清流に生息するアユの遡上が2025年6月に確認された。かつて「死せる川」と呼ばれた同河川では、水質の数値改善と市民・行政の協働による再生制度が進行中。BOD値の低下や導水路整備など制度的対応が功を奏し、自然回復の兆しが見え始めている。アユ定着には課題も残る中、今後の制度改善と市民参加の持続性が注視される。
「死せる川」堀川に
アユが戻る!
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名古屋市中心部を流れる堀川で、清流に生息するアユの群れが確認された。高度経済成長期以降、「死せる川」と呼ばれてきたこの都市河川で、2年連続となる遡上が報告されたことで、市民と行政が続けてきた浄化活動への関心が高まっている。
✅ 要約表
アユの遡上はなぜ注目されたのか?
どこで確認されたのか?
2025年6月9日、名古屋市北区の堀川上流部にあたる志賀橋と黒川橋の間で、アユの群れが泳ぐ様子が市民団体によって確認された。群れは、同じく都市河川に適応しやすいとされるオイカワなどの魚と一緒に行動していたと報告されている。
アユの確認は、市民団体「堀川1000人調査隊」による定点観察の中で行われた。同団体は2007年から堀川の調査活動を続けており、今回の報告は「名古屋港付近で生まれたアユの稚魚が10キロ以上を遡上した可能性がある」として、稀少な生態現象として位置づけている。
なぜ「死せる川」と呼ばれていたのか?
堀川は戦後の都市化と高度経済成長期を背景に、生活排水や工場排水が流れ込むことで深刻な水質汚染に直面した。特に1966年には、同市西区・小塩橋付近でBOD(生物化学的酸素要求量)が54.8mg/Lを記録し、悪臭の発生が常態化していた。
この数値は、水質が生物にとって極めて過酷な状態であることを示しており、堀川は「死せる川」とも称されていた。長年にわたり水生生物の定着は困難とされ、市民の記憶にも負のイメージが色濃く残されていた。
市民参加と調査の継続性
堀川の環境改善に大きく貢献しているのが、市民による継続的な観察活動である。「堀川1000人調査隊」には、これまでに約5万人が登録しており、地域住民・学校・企業などが参加しながら水質や生物の確認を続けている。
活動は単なる記録にとどまらず、調査データは行政にも提供され、河川整備の実施計画にも反映されている。こうした「市民と行政の協働」は、都市における生態系回復の象徴として全国的にも注目を集めている。
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市民による定点調査の継続(2007年〜)
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観察結果のデータ提供と活用
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登録者数は約5万人規模に達している
要素 | 1966年当時 | 2023年以降 |
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BOD値 | 54.8mg/L | 4.2mg/L |
水質評価 | 悪臭が発生し魚が生息できない状態 | アユの一時的な生息が可能な水準へ |
河川環境 | ヘドロが堆積し流れも停滞 | 一部で生物の回復が見られるように |
どのような制度と生態の変化が見られたか?
アユがなぜ戻ってきたのか?
名古屋市中心部を流れる堀川で確認されたアユは、名古屋港付近で生まれた稚魚が都市部を通って遡上してきた可能性があると、市民団体は推定している。海と川を行き来するアユの習性から考えれば、そのルートは10キロ以上に及ぶ。
しかし、堀川の中には餌となるコケなどが十分に存在しておらず、現時点で定着が可能な環境には至っていない。名古屋市の生物多様性センターも、「遡上は確認できても、定住環境の条件は整っていない」との見解を示している。
行政の浄化制度はどう進んだか?
名古屋市では、1999年に市民の要望を受けて「堀川再生」プロジェクトを制度化。庄内川からの導水事業や、雨水が一時的に貯留できる滞水池の整備が進められてきた。これにより、大雨時に濁水や汚泥が直接流れ込む事態は抑制されつつある。
さらに、浄化用の植物の導入や堆積ヘドロの除去なども断続的に行われ、水質改善が数字としても現れている。BODの値は改善傾向を見せ、アユの一時的な生息が可能な水準に近づいているとされる。
生物多様性の象徴としての意味
名古屋市版レッドリスト2025では、アユは「絶滅危惧2類」に分類されている。都市の河川である堀川において、その姿が確認されたこと自体が、水質改善の象徴的な出来事と捉えられている。
環境保全の現場では、「定着は難しいが、魚が遡上できる環境まで回復してきた意義は大きい」との評価もある。アユの確認は単なる一時的な出来事ではなく、制度の変化と自然の回復が交差するポイントとして、今後の観察と検証が求められている。
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アユは「絶滅危惧2類」に分類
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都市河川での一時的確認は回復兆候の指標
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今後の定着可否は環境整備と継続調査に依存
見出し | 要点 |
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生物確認 | アユの遡上が都市河川・堀川で確認された |
定着状況 | 餌となるコケの不足により定住は困難 |
水質改善 | 行政の導水・滞水施策によりBODが改善 |
制度連携 | 市民団体との協働で再生事業が継続中 |
制度と環境回復の段階整理
① 高度経済成長期の工場排水 →
② ヘドロ堆積と悪臭発生 →
③ 市民運動による再生要求(1999年) →
④ 雨水滞水池・導水事業の制度化 →
⑤ 水質改善と一時的アユ遡上の確認(2024〜2025年)
制度施策によって環境が変化し、アユの姿が再び見られるようになった。しかし、定着できない現実が示すのは「戻る兆し」と「生き残れない現実」の同居である。私たちはその差をどう受け止めるべきなのか。
今後の課題と制度的論点は?
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BOD値をさらに3mg/L以下へ抑制する制度整備
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餌資源となる石・岩・コケの着生環境の拡充
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市民・教育機関・企業が共に担う継続的環境調査制度の強化
都市再生という制度が、水質という数値に終始していたならば、生き物の命の徴は見落とされたままだったかもしれない。制度と自然の接点にこそ、いま問いが生まれている。数字ではなく、命が戻ることの意味を、誰が支えるのかが問われている。
FAQ(よくある疑問)
Q:堀川でのアユ確認は何年連続ですか?
A:2024年に続き、2025年も確認されており、2年連続の報告となっています(中日新聞)。
Q:アユは堀川に定着していますか?
A:名古屋市によると、堀川では餌となるコケが不足しており、定着は確認されていません。
Q:水質はどれほど改善されたのですか?
A:BOD値は1966年には54.8mg/Lでしたが、2023年には4.2mg/Lまで改善しています(名古屋市)。
Q:どんな制度が効果的でしたか?
A:庄内川からの導水と雨水滞水池の整備、ヘドロ除去が水質改善に貢献しています。
✅ まとめ
項目 | 要点(1文) |
---|---|
発見と観察 | 名古屋市北区の堀川上流でアユの遡上が2025年6月に確認された |
環境の変化 | BOD値が1966年の54.8mg/Lから2023年には4.2mg/Lまで改善した |
制度対応 | 市は導水路や雨水滞水池を整備し、水質改善策を制度化してきた |
市民の関与 | 市民団体「堀川1000人調査隊」が継続的な調査と行政連携を行っている |
残された課題 | 餌となるコケの不在により、アユの定着には至っておらず今後の整備が必要 |