米菓子大手ハーシーが2027年末までにスナック菓子から合成着色料を段階的に廃止する方針を発表。背景にはFDAの提言や健康リスクへの懸念、そして消費者の“成分透明性”を求める声がある。他社の対応や行政方針との関係、今後の供給網の変化まで詳しく解説。
米ハーシー合成着色料廃止
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米ハーシー、2027年末までに合成着色料を廃止へ…
項目 | 内容 |
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発表日 | 2025年7月1日(米東部時間) |
主体 | ハーシー社(米チョコ大手) |
内容 | スナック菓子から合成着色料を段階廃止 |
期限 | 2027年末までに全廃完了を目指す |
ハーシー社が合成着色料の全廃方針を発表、2027年末までに段階的措置を実施へ
米大手チョコレートメーカーのハーシーは、2025年7月1日付で、2027年末までにすべてのスナック菓子製品から合成着色料の使用を廃止する方針を公表した。対象には、従来色鮮やかさが特徴とされた「スキットルズ」などの人気商品群も含まれている。
この方針は、米国保健福祉省(HHS)と米食品医薬品局(FDA)が2025年4月に発表した「石油系合成着色料の段階的廃止計画」に呼応する形で示されたものである。厚生長官ケネディ氏とFDA長官マカリー氏は共同声明で、ADHDや肥満・糖尿病などの健康リスクへの懸念を背景に、食品業界に対して順次的な対応を促していた。
現時点での合成着色料に関する米国内法規は使用自体を明確に禁止していないが、企業判断による「自主的な全廃」が今後の基準になる可能性が高い。今回のハーシー社の対応も、法的強制ではなく、社会的要請に基づいた先行的な措置と位置付けられている。
業界全体で合成着色料の使用削減が加速、主要企業が同調姿勢を明示
食品業界では、ハーシー社に先駆けて複数の大手企業が同様の方針を打ち出しており、その動きは2024年以降加速している。ネスレ米国法人は2026年半ばまでに主要製品から合成着色料を排除すると発表しており、ゼネラル・ミルズやコナグラ・ブランズ、W.K.ケロッグ、クラフト・ハインツ、タイソン・フーズなども製造工程や原料の見直しを進めている。
一部企業では、既存製品のレシピ改訂と並行して、合成着色料を一切含まない「クリーンラベル」製品を新たに投入する動きも強まっている。これは消費者の“健康志向”や“成分透明性”への関心の高まりに対応したもので、表示義務の枠を超えた企業倫理としても評価されている。
こうした業界全体の流れの中で、ハーシー社の対応は“追従”ではなく、“先導”の意図を持っていると受け止められている。背景には、グローバル市場における企業価値と安全性への信頼性確保という戦略的な判断があるとみられる。
FDA声明の詳細と規制対象着色料
米FDAが2025年4月に発表した「合成着色料廃止方針」は、具体的な対象物質の明示とともに進行スケジュールが提示されている。対象とされたのは、「Red 3」「Citrus Red 2」「Orange B」などの石油系着色料に加え、「FD&C Red 40」や「Yellow 5」「Blue 1」など、これまで広く使用されてきた6色も含まれる。
この発表では、段階的廃止の期限が2026年末までに設定されており、食品業界には代替原料の早期選定とラベル表示の明確化が求められている。ただし、これらの変更は法的強制力を持つものではなく、「推奨に基づく協定型措置」として運用される見通しである。
一方で、健康リスクへの言及に際して、FDAはADHDや肥満との直接的因果関係を断定しているわけではなく、「一定の研究報告がある」として予防的措置の必要性を訴えているに留まる。この“予防原則”に基づいた行政方針が、企業側の先行対応を後押しする形となった。
企業別・合成着色料対応状況
企業名 | 公表時期 | 合成着色料対応内容 |
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ハーシー社 | 2025年7月 | 2027年末までにスナック菓子から段階的廃止 |
ネスレ米国法人 | 2024年10月 | 2026年中頃までに全製品で合成着色料を排除予定 |
ゼネラル・ミルズ | 2025年6月 | クリーンラベル製品の追加投入を発表 |
タイソン・フーズ | 2025年5月 | 加工食品の製法変更を段階的に進行中 |
W.K.ケロッグ | 2024年12月 | 一部製品で既に自然着色料への切替を完了済み |
信頼と選択肢の両立へ――自然志向の強まりが企業姿勢を動かす
ハーシー社の広報担当者は、「当社の製品に対する信頼と信用を維持するうえで、合成着色料の廃止は自然な次のステップである」とコメントした。この発言は単なる品質改善に留まらず、消費者の“ライフスタイルと一致する価値提供”を意識したものである。
近年の米国市場では、「成分表示を確認してから購入する層」が拡大しつつあり、成分の透明性が商品選択に与える影響が大きくなっている。とりわけ子ども向けスナックや家庭用製品においては、保護者世代が“安全性重視”の傾向を強めている。
今後は、単に色素を変えるだけではなく、「合成から自然へ」という流れが“企業ブランドそのものの再定義”につながる可能性がある。ハーシーの動きは、食品業界全体にとって象徴的な転換点と見なされている。
市場影響と政策対応の波及
ハーシー社の決定は、単なる1企業の判断にとどまらず、食品政策全体に波及する構造を持っている。FDAの“段階的自主廃止”方針が広まれば、自然由来原料の供給体制や表示規制の見直しにも影響を及ぼす可能性がある。
既に複数の自治体では、公立学校で提供する食品に対して合成着色料を避ける方針を導入しており、今後は教育機関や公共調達分野においても「着色料フリー」が基準化される動きが見込まれている。
一方、代替原料の価格や安定供給には課題も残る。ハーシー社が2027年末までの完全廃止を掲げた背景には、「供給網の再設計」を視野に入れた戦略的投資判断があったとされている。
企業判断と行政提言の中間領域
着色料廃止における企業の意思決定は、「法規制の有無」と「社会的信用の確保」という二重の評価軸の間に位置している。特に今回のハーシー社の方針は、法的強制がない中でも“先行して動くこと”が社会的評価につながることを前提としている点に特徴がある。
一方、行政機関側も「健康リスクの直接因果」を断定するのではなく、「一定の研究報告を前提とした予防的措置」という曖昧な表現に留めており、企業に最終判断を委ねる構図が強まっている。
このように、食品政策の現場では“科学的根拠”と“社会的受容”の狭間で、企業が自律的にリスクを評価し行動を選ぶ局面が増えている。今回のハーシー社の選択も、その典型例のひとつといえる。
合成着色料廃止に至る企業判断のプロセス
1️⃣ 【社会的要請の高まり】
ADHD・肥満リスク報告 → 行政声明 → 消費者の選択圧
2️⃣ 【規制誘導と自主判断】
FDAが段階廃止を提言 → ハーシー社が自主廃止を決定
3️⃣ 【ブランド価値と信頼形成】
供給網の調整 → 自然原料への転換 → 信頼性の再構築
❓FAQ
Q1. 合成着色料は現在も合法なのですか?
A1. はい、米国では使用が認可されている着色料については法的な禁止はありません。ただし、FDAが段階的な使用中止を推奨している状況です。
Q2. ハーシーの製品は今すぐ変わるのですか?
A2. いいえ、変更は段階的に進められ、2027年末までの完了を目指すと発表されています。
Q3. 他の企業も同じ動きをしていますか?
A3. はい、ネスレやゼネラル・ミルズ、タイソン・フーズなども、合成着色料を排除する取り組みを進めています。
Q4. 健康への影響は科学的に証明されているのですか?
A4. 一部の研究では関連性が示唆されていますが、FDAは「確定的な因果関係」ではなく、予防的な見解に留めています。
Q5. 合成着色料を避けたい場合、どう選べばいいですか?
A5. 「クリーンラベル」や「天然着色料使用」と記載された製品を選ぶと、合成着色料を避けやすくなります。
制度と倫理の狭間で企業が選んだ道
規制が追いつかない領域で、企業が自律的にリスク評価を行い、先んじて対応する構図は、現代の食品業界において“信頼資本”を維持するうえで不可欠な戦略となっている。ハーシー社の決定もまた、科学的決着がつかない問題に対して“社会との共感”という軸で判断を下した事例といえる。
一方で、このような判断が恒常的に求められる状況は、企業に過度な判断負担を課す側面も持つ。行政側が「明確な規制」ではなく「推奨と誘導」にとどまっている現実は、責任の所在を曖昧にし続けているからである。
企業が“リスクの予見可能性”と“倫理的行動”の両立を図るには、制度と市場の橋渡しを担う中間的なルール設計が不可欠である。ハーシーの判断は、その設計の不在を可視化する出来事でもあった。